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巨大怪獣映画は人間にとっての希望だと思う/『アンダーウォーター』感想

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アンダーウォーター : 作品情報 - 映画.com

アンダーウォーター|ブルーレイ・DVD・デジタル配信|ディズニー公式

深海約1.1キロメートルの海底研究所でエンジニアとして働くノラ。ある日、大地震が発生し、研究所が壊滅的な状態に陥ってしまう。なんとか生き残ったノラと仲間たちは、潜水服を着て近くの基地まで避難することに。しかし、地震によって覚醒した謎の生命体がノラたちに襲いかかる。

モンスター映画に対する真摯なラブレター 。

私は映画にそこまで詳しいわけではないので的外れなことを言っていたらスルーしてほしいのですが。私はこれをまるでモンスター映画へのラブレターのような映画だなと思いました。

 

インターネットでのとんでもねえ評判を聞いて即座に配信を購入したのですが、モンスター映画を好きな人も初めてモンスター映画を観る人も満足できるような真摯な作品。もうとりあえず「観て!!!!!!!!!」としか言えないし、ちょちょいと検索をかけたらすご~く詳しく丁寧に解説しているツイートや記事がいっぱい引っかかると思うので私はさっくりそこを流していきますが、

・まず90分というコンパクトな作品ゆえに開始10分で全てが始まる「御託はいいからさっさと行くぞ!」というテンポ。本当に主人公の立場も名前も明かされずとにかく開始早々基地の破壊、絶望、絶望!キャラクターたちの立場や名前は殆ど会話の中での推測でこちらも掴んでいくのですが、そこに余計な情報量がなく、物語に集中できる。全員で生存に向けて必死になる姿に没入できる。

・物語の山場を作るために馬鹿をやらかす悪人のいないストレスフリーさ。前述にも関わりありますが、最小限のキャラクター全員が生存に向かって協力し努力していくので、とにかくストレスがない。

・モンスターが出てこなくても絶望絶望絶望しかない最悪な舞台設定スリリングさ。深海の基地が崩壊って無理ゲー。真っ暗な深海を身ひとつで歩いていく絶望ったらない。モンスター出てこなくても生存率限りなくゼロでは。

クトゥルフ的なモンスター。みんな好き。

書き出したらキリがないけどなんかもう全てがとても良い。

90分だからか脚本がとっちらかることもなく、1本の筋が通ってラストに向かっていき、その神々しく荘厳であるとすら言えるラストシーンに全てが収束していく。

映画に対して真摯で非常に満足度が高かった。緩急もついていて、映画館の高音質高画質で観たかったな~~~~!配信限定なのが残念。

 

少しネタバレになりますが。

主人公たちは途中から、深海に生息していたと思われる人間より少し大きなサイズのモンスターに襲われるのですがその見た目はエイリアン的。正直なところまあよくある造形のモンスターで、「あーこういうモンスターかあ」と少しがっかりもしてしまったのですが。

その後生き残って別の深海基地に歩いてたどり着いた主人公はとてつもなく巨大で雄大なモンスターがそこに居るのを見ます。イメージとしてはゴジラのような「怪獣」的な見た目で、先ほどまでのモンスターとは比べものにならないくらい超巨大なのですが、その描き方がとても良い。

そのモンスターはとにかく雄大。咆哮することもなく、真っ暗な深海のなか、果たして何百年何千年前からそこにいるのか分からないくらい荘厳で雄大で、ただただそこに「在る」。

主人公もそれを基地の中からただ見つめている。

私はモンスター映画で超巨大なモンスターがちまちま人間を攻撃しているのを見ると「いやお前からしたら人間なんてアリだし、食っても柿ピーにしかならんやろ」と思ってしまい凄く萎えるのですが、このモンスターは映画の演出上必要な攻撃はしつつもちまちま人間を狙って食って~みたいなことはせず、「小バエがいたから追っ払った」くらいのテンションで破壊をしてくるので凄く良い。まさに怪獣。存在感も価値観も人間とは違うのだと感じられる、それが怪獣。

 

「深海にはきっと大きな何かがいる」、そんな私たちの妄想を忠実に映画化した本作。

 

そしてこれは恐怖のような妄想であるし、願いのような妄想でもあります。

 

ところで、私は人生全てに、生そのものにどうしようもない恐怖を抱きながら生きています。毎日どうしようもないことを考えては生と全てに恐怖を覚えてどうしようもなくなっています。

こればかりはこの妄執から逃げる術はなく、同じように毎日考えている人も少なくないと思いますが。生きるってなんだろう、どうせいつか地球は滅びて宇宙も消えるのに、そもそも無ってなんだろう、生命になんの意味があるのだろう、どうして世界にはなんの指針もないのだろう、赤子の頃の親のように全てを包み込んでくれて「正解」を教え続けてくれる神様のような存在はどうして実在しないのだろう、変化しない「絶対」はなぜ無いのだろう。そんなことを考えて悩んでしまう人は世界中に普遍的に存在していて、そして(他の要因も多くありますが)私のように「死ぬしかないんだな」と思う人もまた少なくはないと思います。

この世にあって欲しいものがあるよ 大きくて勇ましくて動かない永遠

(『この人生は夢だらけ』椎名林檎

私も同じように「どうかこの世に人智を超えた大きくて静かで絶対的な永遠があってほしい」と願っている1人なので、このラストは希望的ですらありました。

深海にあんなに雄大で美しい人智を超えた怪獣があったのなら、私は人生に覚える恐怖を少し緩和させることができるかもしれない。

 

だからこそ主人公の決断は静かでありながら勇敢で、モンスター映画によくある「人間が最後に強く逆襲する」的な派手さがないのもいい。そういった演出も大好きですが、この映画の「深海には大きな何かがいる」という恐怖とも願いともとれる妄想を描いた演出には、モンスターを悪(敵)と置いて勇ましく反撃をするような演出はあまりそぐわないのではないかと感じたので。

ただ仲間を生かすためにその決断をして自らの命を捨てた主人公も静かでうつくしく、真っ暗な深海のなか最後は強烈な光に包まれていました。その光はあの怪獣が存在したから発生した光であり、主人公を殺す光ですが仲間を生かす光です。

 

巨大で雄大人智を超えた永遠がずっとそこにあってほしいね。

怪獣映画は人間にとっての希望ですらあると思う。