『サマー・オブ・84』感想/少年たちの冒険を描いた青春ジュブナイルスラッシャー映画
(画像:サマー・オブ・84 : 作品情報 - 映画.com)
あらすじ
思春期まっただ中のオタク少年たちが隣家の警察官を殺人鬼と疑い、独自に調査を始めたことから、思いがけない恐怖に直面する姿を描いた青春ホラー。カナダの映像制作ユニット「ROADKILL SUPERSTARS(RKSS)」(フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセル)が、1980年代のスラッシャー映画やホラー、サスペンス、青春映画にオマージュをささげて描いた。84年夏、アメリカ郊外の田舎町に暮らす好奇心旺盛な15歳の少年デイビーは、向かいの家に暮らす警察官マッキーが、近隣の町で発生している子どもばかりを狙った連続殺人事件の犯人ではないかとにらみ、親友のイーツ、ウッディ、ファラディとともに独自の調査を開始。しかし、そんな彼らの行く手には、想像を超えた恐ろしい現実が待ち受けていた。(上記同URLより引用)
(以下、ネタバレを含む箇所には「ネタバレ」と記載)
80年代にオマージュを捧げた青春ジュブナイルスラッシャー映画。
隣人が連続殺人鬼ではないかと疑った少年4人の一夏の冒険が最悪の事態を招いていく様が最悪で最高。
シンセテイストな音楽も80年代らしく、『It』もそうだけど、80年代あたりにオマージュしている作品はどれも懐かしくて恐ろしい。
『ドント・ブリーズ』で死にかけた人、たぶん死にかける。
後半は正直よくあるサイコホラーという感じが拭えなかったけど、後半までの少年たちのルサンチマンやフラストレーション、「子供扱いされたくない」けど「大人にはなりたくない」という焦燥、暴走していくひと夏の危うい冒険がヒリつくほどに美しく懐かしい。
誰しも子供の頃にスパイごっこをしたりしていたもので、それが暴走するとこうも恐ろしい結末になるのか……という背筋が凍る感覚。
邪悪なスタンドバイミーとはよく言ったもので、邪悪なスラッシャー映画と、少年たちの“少年期”にしか存在しえない青春映画の様相がよくマッチしている。
重ね重ね、ラストには消化不良な感じも否めないが、非常に良くできた作品で、ラストも息を飲み続け心臓が苦しくなってしまう。
↓ネタバレを含みます
ところでラストについて少し言及すると、前半と少しテイストが変わり一見すると陳腐なサイコホラーになりかねないラストにしたのは、あえてその危険を犯しているのではないかと思う。
ラストで隣人が本当に殺人鬼であったことが露見し、主人公たちは隣人に誘拐され、命懸けの鬼ごっこをする。最後に隣人は言う「いまは殺さない。俺がいつか現れることを想像し生きろ、そしてそれはある日現実になる」と。
『It』では、itは完全には消えず、いつかまた少年たちの目の前に現れる。
人は誰しも少年時代に「恐ろしいもの」を抱えて生きている。それは犬や蛇のような分かりやすいトラウマかもしれないし、漠然とした恐怖かもしれないし、ルサンチマンかもしれない。それらを抱え、いつ息を吹き返すかわからないことに怯えたり、時に忘れたり、また思い出したりしながら生きていく。
そういう少年の普遍的イニシエーションをここで分かりやすい形で描いたのではないかと思う。現に主人公は殺人鬼を捕まえたヒーローだと言われても、曖昧に笑うのみで、喜びを見せない。
またこれはおそらく80年代の社会不安と関わっていて、オカルトが台頭した時代、子供は世界に対し漠然とした不安を抱いていたのではないかと。主人公はオカルト好きな少年で、象徴的だ。日本でも80年代(70年代)からオカルトの台頭と社会不安は関わっていたので、外国でもそうじゃないかなあと思うけど(世紀末とか…)、詳しくないのではっきりとはわからない。
ただそう考えればこのラストも前半の青春ジュブナイルスラッシャーとよくつながるのではないか。
いずれにせよよくできた作品だった。またみたい!疲れるけど。