現金満タン、ハイオクで。

サブカルチャーがだいすき。ツイッターの延長なので詳しくはツイッターを見てくれ。

2022年5月に観た映画の話をする

すでに夏の気配を隠さないの、やめろ。地球。

 

 

『N号棟』

2000年に岐阜県富加町で起きた「幽霊団地事件」の実話をモチーフに描いた都市伝説ホラー。とある地方都市にある、かつて心霊現象で話題となった廃団地。死恐怖症を抱える大学生の史織は、同じ大学に通う啓太や真帆と興味本位でその廃団地を訪れる。そこにはなぜか多くの住人たちがおり、史織たちの前で激しいラップ現象や住人の自殺が続発。しかし住人たちは顔色ひとつ変えず、怯える若者たちを仲間にしようと巧みに誘惑してくる。神秘的な体験に魅せられた啓太と真帆は洗脳され、追い詰められた史織は自殺者が運び込まれた建物内へ入り込むが……。

N号棟 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画「N号棟」公式サイト | 2022年G.W.全国ロードショー

わーーーーい!!!!おもしろい!!!楽しい!!!!

楽しい映画です。でも最近見たJホラーがこのN号棟と真事故物件なので、Jホラーの平均値を勘違いしてしまいそうになる。ここらで「うーん、まあ悪くはないけど、ね」くらいの映画を連続で食らっておかないと、感覚がバグったままヤバい映画(邦画CUBEとか……)を観たらショックで死んじゃうかもしれない。

それにしてもこの映画といい後述する『死刑にいたる病』といい、「はい、こちらこのような手口を用いて洗脳をしております。洗脳はこのように行うと効果的です。はい、洗脳が完了しました」みたいな映画が多いな。本作も「洗脳でござい」という感じのソーンが多くて、それでいてわりと死体描写に力が入っていて満足度が高い。

主人公も図太くてガンガンに物理攻撃を仕掛けてくるクソアマなので、観ていて変な負荷がない。(泣いているだけのヒロインは観客への負荷が高すぎる)しかもめ~~~~っちゃ顔が可愛い。コムアイみたい。かわいい!!なりたいなあ

そして終盤で「死を正しく恐れろ」というメッセージが打ち出されるのですが、私はマジで泣いてしまいましたね。メッセージ性の高さ、『アンナチュラル』じゃん………………
死は万人に等しく訪れるもので日常の延長に存在しているから恐れるべきものではなくて、でも死はひとつの転換点として万人に存在しているからきちんと正しく恐れなければならない。むやみやたらに怖がるのではなく、真摯に向き合って、ちゃんと恐れて受け入れなければならない。怒涛の終盤に、カルトホラーであるはずの本作なのに主人公への救いと我々への啓蒙があって、そのシンプルで飾り立てないラストに胸を打たれて泣いちゃいました。わたしも死を正しく恐れてすべてに報われたいよ~~~~~ん……

N号棟、いい映画だ。

 

『ハッチング 孵化』

北欧フィンランドで家族と暮らす12歳の少女ティンヤ。完璧で幸せな家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばすため、すべてを我慢し自分を抑えるようになった彼女は、体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。ティンヤが家族には内緒で、自分のベッドで温め続けた卵は、やがて大きくなり、遂には孵化する。卵から生まれた「それ」は、幸福に見える家族の仮面を剥ぎ取っていく。

ハッチング 孵化 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画『ハッチング ー孵化ー』公式サイト

 

児相!!!!!!!!!!!!!

 

「メンヘラ彼女と理解ある彼くん」の20年後強化版でぞくぞくしました。理解ある彼くんはやがて意思のない父親になる、自然の摂理ですね。教科書にも書いてます。

 

かなり良い意味で思っていた通りの映画で私は大満足なのですが、とはいえ全部母親のせいなんですよね・・・・・・・親ガチャ大失敗・・・・・・・・・

あと不倫相手もたいがい頭バグってるくせいに相対的に常識人ヅラしててウケる

 

『死刑にいたる病』

鬱屈した日々を送る大学生・雅也のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村から1通の手紙が届く。24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。

死刑にいたる病 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画『死刑にいたる病』オフィシャルサイト 2022年5月公開

 

肉食獣ではなく「食虫植物」。

 

白石和彌のバイオレンスの描き方は、単純な強弱や痛覚の描写(つまり「視覚」の情報)だけに頼らず、嗅覚まで刺激するような表現が巧みであると思っていて。

私は韓国ノワールをほめちぎるときにバイオレンス描写における「温度感」の話をよくするのですが、これは(乱暴な括り方であるということと誤解をおそれずに言うのであれば)アジア映画に顕著な特徴なんじゃないかなと思っています。強み。
真夏の満員電車で他人の肌に触れてしまったときの不快感、嫌悪感。そういったものが根底にある、ぬめった血の生ぬるさと不快な臭いが観客に伝わってきて嫌な気分にさせるようなバイオレンス描写。

R12とは思えないくらい、「直視」させてくる映画です。想定していたより序盤からギアぶっぱなしてきたので(爪!爪!)、アッッこれ白石和彌だった!!!!!!となりましたね。

白石和彌の暴力、『孤狼の血』もそうだったけど、想像できるリアルな苦痛なのが本当にいやだ。まあ、好きなんですけど……

 

R12にしてはかなり攻めているバイオレンス描写に意識が向けられがちですが、本当に単純に映画を作るのが上手い。何度も繰り返される面会のシーンでは二人の間のアクリル板の反射を使って、2人の輪郭を完全に重ねたり、少しずらしたり、片方の輪郭だけぼやかしたり、どちらかの陰影を濃くしたり、1つのギミックで状況や関係性を示唆していることに顕著でしたが、本当に単純に、映画がうめぇ。

 

最初に食虫植物と言ったように阿部サダヲの演技が非常に秀逸で、なぜそこまで目の光をなくせるのか恐ろしくてたまらない。

『哭声』がヒットしたあと韓国ではわがままを言う子どもに「いい子にしないと國村隼が来るぞ」と脅す手法が一部家庭にて流行したと聞きましたが、日本でも「いい子にしないと阿部サダヲがくるぞ」と脅せばいいと思う。

ただ阿部サダヲおよび脇を固めるベテラン勢の演技がかなり良かったせいで、岡田健史や岩田剛典など若手陣の今一歩及ばないところが際立ってしまい、役どころを食われてしまっていた印象。disではないのですが、個人的には、岩田剛典の役どころはめちゃくちゃ重要なのにいまいち印象にないというか希薄な感じがしてしまうので、全体的にもっと実力派の俳優で固めてほしかったという感想が否めなかったです。そこだけちょっと残念。

 

ところでなんでこの阿部サダヲはさんかく窓の岡田将生しか着ないような私服を着てるんだ。なんや、その……胸元のフリルは……

 

『シン・ウルトラマン

「禍威獣(カイジュウ)」と呼ばれる謎の巨大生物が次々と現れ、その存在が日常になった日本。通常兵器が通じない禍威獣に対応するため、政府はスペシャリストを集めて「禍威獣特設対策室専従班」=通称「禍特対(カトクタイ)」を設立。班長の田村君男、作戦立案担当官の神永新二ら禍特対のメンバーが日々任務にあたっていた。そんなある時、大気圏外から銀色の巨人が突如出現。巨人対策のため禍特対には新たに分析官の浅見弘子が配属され、神永とバディを組むことになる。

シン・ウルトラマン : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画『シン・ウルトラマン』公式サイト

「これ、村の決まりやから」に続くインターネットオタクワードミーム、「私の好きな言葉です」 汎用性が高い

 

インターネットでクソつまらんバズ狙い大喜利のネタにされる前に観なければと、初日のチケットをとりました。ミッドサマーの件、まだ許していない。

一言でこの映画を言うと「庵野の余生」でした。リタイアした経済的自由者が都会から車でいけるくらいのほどよい山の方で小さい養鶏場を営むように、シンゴジラにはまだ感じた「商業映画としての成功(つまり利益)」を追う意識は感じず、ひたすらにインディーズムービーで、ウルトラマンのファンムービーのよう。これは悪口ではなく、観れば観るほど「ま~~~~エヴァ終わらせられたしな・・・・・・・おつかれちゃん」という気持ちになりますね。

もちろん本人もこれに関しては自覚的だろうし、余生を楽しく過ごせるならそれでなによりだよ。

ただ一般的なリタイアした人間と違って、庵野は「成功したカリスマ」なので、余生を過ごすにしてもビッグタイトルを借りられてお役所など公的機関や自衛隊が協力してくれて著名な俳優が集まってくれる。私の知る70代のおじいちゃんが、自分のおこした事業も成功して息子にその事業を譲った後、余生の楽しみとして音楽製作をしてインディーズでのんびり楽しくやっているのですが、そのスケール感が尋常ではないのが庵野のこの余生のあり方なんだろうかと思ったり。

長澤まさみへの「セクハラ」的描写が物議をかもしていて、その議論が発生することは現代ではごく自然なことだと私は理解しているのですが、ただ(細かな描写にもう少しカバーするための予防線は必要だっただろうけど)一連の「セクハラ」的描写が庵野や樋口の思想や資質に由来するモノかと言われたらそうとは思えず。例えばドラえもんのファンムービーをつくるときに「きゃー!のび太さんのえっちー!」というお風呂描写があったとして、それが監督の思想に由来するものかと言われたら、いやそういうわけではないだろうと。これは極端な例ですが、あるコンテンツやジャンルにおける一種の紋切り型の再現を行うという話であるように思います。とはいえ、「きゃー!のび太さんのえっちー!」シーンを現代になにも考えずに再現してよいものなのかという議論は、また別個に存在はしますが。

私は戦隊モノのモモレンジャーの存在には疑問を呈していますが、自分が戦隊モノのファンムービーを撮れと言われたらモモレンジャーだしちゃうもんな。

そしてそもそも件の「セクハラ」になりかねん描写については、おそらくコミック的表現として在ったのに生身の人間がそれを演じると生々しくなってしまいノイズが生じてしまうという根本的な躓きであったとも思います。

 

内容自体の感想としては、まあ米津が全部いってくれているので、語ることがあまりないです。米津に勝てるわけ、ないので……。

 

禍威獣とかいう当て字には「庵野しゃらくせ~~~~~!」となってたけど、開始30秒で怒涛の怪獣ラッシュシーンでは不覚にも「お、おもしれ~~~~!!」となってしまいました。くやし~~~。

無能に描かれているわりに妙に決断は早い政治家たちや、怪獣が暴れている地域で子どもが残っていることにそこまで大きく驚くことはなく身一つで保護に向かうカトクタイなど、些細なところに「禍威獣出現に適応した日本」がにじみ出ていて、そういったところにパラレルワールドとしての面白さが結構あった。

神永がなぜウルトラマンになったのかの真相を知ることはなく恐らく地球人の登場人物全員「神永は最初からウルトラマンだった」と誤解していそうなあたりとか、そういった「認識のずれ」が訂正されないまま物語が進行して終わっていく感じとか、非常に庵野作品らしさがありました。

ちなみにCGとかあれでいいんですかね。シンゴジラのほうが特撮へのリスペクトを強く感じたのですが、今回はちょっと質感などぬるぬるしていて特撮みが薄かったような気がします。私は『アナコンダ』シリーズを愛しているのですが、シリーズを重ねるほどCG技術が向上して逆にリアリティがなくなっていくことに小学生ながらにキレていたことを思い出しました。

……というのが観た瞬間の率直な感想ではあったのですが、落ち着いて振り返ってみれば、やはり安易に技術を選択したとは思えず、いわゆるコマ撮りやアニマルエレクトロニクスのようなアナログ『特撮』技術と、それをいま食い尽くさんばかりのデジタル技術とが共存し融合したなら……という浪漫(映像に携わる人間にとっては執念なのかもしれない)の一種の形だったようにも思います。

正直この映画が「面白い」かどうかはかなり賛否両論だと思いますが、オマージュを捧げるファンムービー的だからこそ(余生だからこそ?)出来た気骨ある作品だとは思います。20代30代には作れないような気がする。

 

オールド・ボーイ(4K)』

平凡な会社員オ・デスはある日突然何者かに拉致され、ベッドとテレビしかない狭い部屋に監禁されてしまう。理由も目的も分からぬまま15年の歳月が流れたある日、オ・デスは突如として解放される。若い女ミドの協力を得て犯人捜しに乗り出したオ・デスの前に、謎の男ウジンが出現。ウジンはオ・デスに、監禁された理由を5日間で解き明かせと、互いの命を懸けたゲームを持ちかける

オールド・ボーイ(2003) : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画『オールド・ボーイ4K』オフィシャルサイト

 

2003年公開の本作が4Kで上映されたので、観てきました!!

 

『渇き』『お嬢さん』のパク・チャヌク監督なので、まあハピハピラブラブ♡♡な作風なわけもなく。原作は日本の漫画ですが、韓国映画お家芸というべきか得意技というべきか、生ぬるくてかなり嫌なバイオレンス描写が非常に際立っている。

この映画を「胸糞」と表現する人も多いだろうけど、私は「鬱勃起」のほうが近いかなと思いましたね。(鬱勃起が分からない人はニュアンスを感じ取ってください。オタクワードです)

私は昔なにかのドラマか映画で『行方をくらました娘かもしれないから、泣きながらある女優のAVを観る両親』というシチュエーションを観て「鬱勃起」の巨大な概念を食らったのですが。そういうことです。私は、鬱勃起が、好き。

 

観ていて「めっちゃ好き♡」と「めっちゃやだ……」を反復横跳びさせられるので情緒が不安定になる。もうめちゃくちゃだ。勘弁してくれ。好きだ。気持ち悪い。

始まりから終わりまで、生々しく気色悪いバイオレンス描写(グロではない)が続き、そこに肌を逆なでされるような居心地の悪い不快感が満ちていき、2時間かけてその心がざわざわする温い不快感に支配され尽くして、からっぽの大穴をのぞき込むような空虚なラストに茫然とする。そういう映画。

こういった感情を抱かされるのも、全てパク・チャヌクの術中にあるのかと思うとくやしいですね。映画の構成が上手い。くやし~~~~!好きだ。最高!本当にいやだったな。

 

ウジンが全てに対して振り切っていて異常さに対して一貫性を持っているのでかなり好印象。蛇のように執念深い男。ラストの潔さも含めて、良い。最後にはなにもかもがからっぽになってしまう映画だけど、そもそも最初からすべてからっぽで、宇宙なんてハナからなかったのかもしれないな。などと思ってしまうような、空虚な映画でした。

 

わたし、本当に痛いの。でも我慢してるの。…………いい? おじさんを喜ばせたいの。…………

 

(以下少しネタバレ)

私は近親相姦を愛しているオタクなのでわりと序盤で姉弟にも父娘にも「ん……もしや……」と思ってはいたのですが、その上でなお「そりゃ…………ないぜ…………神なんておらんのや…」となりました。本当に気分が悪くなっちゃうな。好きだ!

 

 

『クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち』

ターミネーター2」「ジュラシック・パーク」「スター・ウォーズ」など映画史に残る数々の名作に登場するクリーチャーやモンスターたちと、彼らを生み出してきたクリエイターたちの関係性に迫ったドキュメンタリー。想像の産物であるクリーチャーやモンスターをスクリーン上に出現させる特撮、特殊効果、特殊造形、そして近年発達の目覚ましいデジタル技術の魅力と背景を、数々の映画で活躍してきた著名アーティスト、クリエイターたちのインタビューをもとに探っていき、「現代のフランケンシュタイン(怪物の創造主)」とも呼ぶべきスペシャリストたちが、クリーチャーやモンスターに息吹を吹き込む瞬間を映し出していく。「スター・ウォーズ」の特撮を担当したフィル・ティペットや、「パンズ・ラビリンス」「ヘルボーイ」の監督ギレルモ・デルトロ、「ターミネーター2」特撮のデニス・ミューレン、「メイ・イン・ブラック」特殊メイクのリック・ベイカーら著名クリエイターが多数出演。

クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画『クリーチャーデザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち』公式サイト

シンウルトラマンで門外漢ながらも特撮のありかたやアナログとデジタルの行く末を考えた身としては非常にタイムリーな映画。(製作は2015年ですが、日本劇場公開は先日だったので)

私は最初情熱大陸的な、自分の仕事にプライドを持つ超一流の技術者たちがその巧みの技とロマンを語り、やがて体系的にハリウッド映画史の特撮史をひもといていくような話かと思っていたのですが、徐々に生々しい話へと転換していき。

椎名林檎曰く「浪漫と算盤」、夢と飯の種のことを天秤にかけながら、悩み苦しみ悦び祝い、手がけていく生業。

栄枯盛衰といえばあまりに簡単な言葉ですが、映画を愛し映画に執心しているからこそ逃れられない苦しみと社会構造への悲哀がきりきりと描かれ(そもそも当人たちの言葉で語られるのだから生々しくて当たり前ですが)、昨今特に取りざたされるエンタメ業界での賃金や待遇・尊厳の問題が、やがて終盤には我々すべてに共通する労働の問題に押し広げられて、観ているこちらまでなんか息切れしてくる。エンタメという特殊な世界の話だからこそ、ある意味一般化して顕著にその問題が捉えられやすいのかもしれない。

と、後半のひりひりしたパートの話ばかりしてしまいましたが、出てくる技術者たちは私でも知っているような超有名な作品を手がけた人たちで「あの映画の舞台裏」が垣間見られるのはとても楽しかった!!特殊効果ってほんとうにすごい。私がずっとCGだと思っていたものが特撮技術であったと知り、え!!??うそ!!??正気!!??などと何回も思いました。職人、すげ~~~~~

人間って大人になると職人や農家酪農家のような自らの手で自然に触れてなにかをつくる人に漠然と憧れてしまうものですが(都会はつらいね)、その「万人が抱く職人へのふんわりした憧れ」を可視化したような映画。そして当人たちも同じように映画に浪漫を抱いていて、もはや執心といっていい。やっぱり愛って呪いだよなと思ったり。

呪い呪われている彼らの錯綜する言葉の最後、映像のラストでデルトロが「怪物がスタジオに入ってきたとき、私は私の人生を完璧だと感じる」と心底嬉しそうに笑っていたのが印象的でした。なんてストレートで純真でどうしようもない呪縛なんだろうか。

 

『スプリー』

ライドシェアドライバーのカート・カンクルはフォロワーを増やしたい一心であるアイデアを思いつく。それは乗客を手にかけ、その様子をライブストリーミングで配信するというとんでもないものだった。カートはSNSをバズらせて人生の一発逆転をもくろむが、「フェイクだ」「退屈だ」と、反応は散々なもので、まったく盛り上がる気配がない。思惑がはずれたカートの怒りの矛先は乗客にとどまらず、拡散させないインフルエンサーにまで向けられていく。

スプリー : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

https://synca.jp/spre

荒唐無稽でナンセンスなストーリーながら、昨今量産される「SNS社会を皮肉った映画」としてはなかなか良い出来。もちろん大前提としてナンセンスバイオレンスなのですが、そのナンセンスさが上滑りする様がSNSの空虚さを揶揄する本作の構造によく合致していて、どこまでも意味が無いからこそ意味を持つ映画。

バイオレンス描写に関してはいわゆるゴアというほどではないので、個人的には期待していたほどではなく拍子抜けでしたが、まあしょっぱなから倫理感バグり散らかしている登場人物たちに満足。全員虚構に飲まれすぎ。

ラストまで全てナンセンスだったのが、潔くて非常に好印象。

バズるために殺人ライブ!!というのはさすがにフィクションが過ぎますが、これくらい倫理観が麻痺してしまった捨て身のバズ狙い配信者が何かをやらかさないとは決して言い切れなくて、「もしかしたらいつかあるかもな」なんて思ったりもしました。

 

『先生、私の隣に座っていただけませんか?』

漫画家・佐和子の新作漫画「先生、私の隣に座っていただけませんか?」。そこには、自分たちとよく似た夫婦の姿が描かれ、さらに佐和子の夫・俊夫と編集者・千佳の不倫現場がリアルに描かれていた。やがて物語は、佐和子と自動車教習所の先生との淡い恋へと急展開する。この漫画は完全な創作なのか、ただの妄想なのか、それとも夫に対する佐和子からの復讐なのか。現実そっくりの不倫漫画を読み進めていく中で、恐怖と嫉妬に震える俊夫は、現実と漫画の境界が曖昧になっていく。

先生、私の隣に座っていただけませんか? : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』公式サイト

近年の邦画のなかでは結構な傑作だと思います。

私は黒木華の容貌や演技が凄く好きなのですが(銀座の高級クラブでママに信頼されているホステスにいがちな、品があるのにそこはかとなく艶っぽい瓜実顔で、本当に綺麗)、本作でも「……うん……」「……うーん」「……」という演技の間の取り方や発声が本当に絶妙。その絶妙な黒木華の演技が、フィクションとノンフィクションの境界を曖昧にする……やがてぐちゃぐちゃに溶かしてしまう脚本とよく合致していて、一気に世この映画の界観を整える怪演であったと思います。主演2人のキャスティングも「この人じゃないとだめだ」と思わせるものであったし、脇を固める奈緒というキャスティングも非常に良かった。彼女は溌剌としていて天真爛漫でありながらどこか「ヤバい」女の演技をさせたらなかなかにピカイチだと思っているので、個人的には最強の布陣でした。

黒木華ちゃんも本当にきれいな瓜実顔で、おとなしくて地味に見せかけながら腹の中でいろんなものが渦巻いている「女」を演じさせたら、ものすごく爆発的に煌めくひと。これは本当に誉め言葉なのですが、いま日本の女優のなかでいちばん「不倫」という言葉が似合うと思ってます。『来る』の演技もとてつもなく良かったね・・・・・。

 

先に述べたように、黒木華の間の取り方に代表されるように本作はなかなかにしっとりと静謐な間で進んでいくので、刺激的で面白い映画、スリリングさを求めた人からすれば期待外れかもしれません。でも私は、その静謐な中で日常と非日常がアンバランスにどうにか均衡を保っていて、でもひとつ虚構が剥がれていくと途端に全てが足元からぐらぐら揺らいでいく感じ、そのひんやりとした畏怖が凄く雰囲気に合っていて、好きな映画です。

全てを見終えたあとにもう一度見返すと、細やかなギミックに気付いてまた楽しい。

かなり好きな映画です。

ちなみに本作や『哀愁しんでれら』(面白かったね~~~~)を輩出したTSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2018、今度は『この子は邪悪』というタイトルからビンビンに惹かれる映画を公開予定なので、もう楽しみで仕方ないです。人生、バラ色ってか。

 

トップガン マーヴェリック』

アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校トップガンに、伝説のパイロット、マーヴェリックが教官として帰ってきた。空の厳しさと美しさを誰よりも知る彼は、守ることの難しさと戦うことの厳しさを教えるが、訓練生たちはそんな彼の型破りな指導に戸惑い反発する。その中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした相棒グースの息子ルースターの姿もあった。ルースターはマーヴェリックを恨み、彼と対峙するが……。

トップガン マーヴェリック : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

映画『トップガン マーヴェリック』公式サイト

 

トップガン マーヴェリック お前が空の王者!!!!!!!!

 

私は前作『トップガン』が製作されたときにまだ産まれていないどころか親がまだ未成年のキッズだったくらいなので、正直この映画に思い入れは全く無いのですが、天をも突き抜けるほどの大評判を聞いて観に行きました。

それに際してアマプラで前作を観たのですが(ヤバ噂は小耳に挟んでいたので字幕で観たよ)、まずトムクルーズが若すぎて最初の方は話が入ってこなかった。トムクルーズ、「少年」じゃん!!??!?内容についてはまあ派手で画面映えはするだろうしストレスのない「ハリウッド映画」の起承転結で、観たいと思ったモノが観られる感じ。若干駆け足なのと些細な構成に粗が否めないのはあるけど、でもまあいかにもハリウッド大作って感じでいいわね~などと思っていました。それより、やっぱい80年代の映画だからか音楽は古めかしさを感じちゃうな、なんて思っていました。が、

トップガン マーヴェリック お前が空の王者だ!!!!!!

前作に思い入れがない私でもほろりときてしまうくらいの、クサいほどに熱くてストレートな映画!いやかない久々に「ハリウッド映画を観た」という気持ちにさせてもらいました。ハリウッド、最高!

冒頭から前作へのオマージュが散りばめられていて、そこに愛があることが凄く分かる。それだけでグッときてしまいますが、さらに前作を踏まえたうえでめちゃくちゃストレートに「観たいものを見せてやるよ」という圧倒的な気骨を感じる脚本構成と画面。ともすればクサくて恥ずかしくなっちゃいそうな表現も物凄くまっすぐに撮りきられていて、「これが!!!トップガン!!!!」という凄みがある。とんでもねえ。

飛行シーンについては、ふつうであれば機体を外から撮った描写にアクションシーンの大半が割かれるはずですが、むしろ機体がびゅんびゅん飛ぶ姿のほうが退屈に思えてしまうくらいパイロットたちの「顔だけ」のアクションシーンが圧巻。そしてなによりトムクルーズの「顔だけ」の凄みと言ったら、もう表現ができない。「なんだその目つきは」というような台詞が繰り返し出てきますが、本当に、なんだその目つきは…………。銃弾やミサイルや閃光や血しぶきを軽く凌駕する「目の演技」、これだけで前作を観ていない人でも一見の価値がある。

そして前作では古いなと感じてしまった音楽が、一気にエモーショナルな気持ちにさせる最高のBGMになっていました。最高。最高しか言ってないなわたし。

こんなの青春ドンピシャのおじさんおばさんが観たら泣いてしまうのでは?と半泣きになりながら観ていたのですが、案の定そこかしこから鼻を啜る嗚咽が聞こえてきて、顔も名前も知らないおじさんおばさんの青春の片鱗に触れてしまったことでまたちょっと泣いてしまった。かつてはみんな青かった。そうだよな。

少なくとも私はとても愛のある、そして気骨溢れる続編だと思いました。「正解」の映画。
アマプラなどで今後本作が公開されたときに「うわ~映画館で見ればよかった~」と思ってしまう人を少しでも減らすために、みんな今劇場で見てください。

 

ちなみに私は愚かな女なので、『トップガン』のラスト10分くらいまでふつうに空軍の話だと思ってました。だって空、飛んでるんだもん……

 

 

 

さて5月も生き延びましたね。これからはお楽しみのホラーラッシュですね!!!!エンタメにすくわれたりすくわれなかったりしながら生きようねっ