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『クワイエット・プレイス』感想/荒廃した世界の「その後」を描いたサバイバル映画

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https://eiga.com/movie/88476/

 

音に反応して人間を襲う「何か」によって人類が滅亡の危機に瀕した世界で、「決して音を立ててはいけない」というルールを守り、生き延びている家族がいた。彼らは会話に手話を使い、歩くときは裸足で、道には砂を敷き詰め、静寂とともに暮らしていた。しかし、そんな一家を想像を絶する恐怖が襲う。(映画.comより引用抜粋)


ホラー映画ではない、という印象が強かった。
IT/イット “それ”が見えたら、終わり』を超えて好評だったという本作。『IT』は大ヒット映画のため指針にされることが多いけれど、たしかにホラー演出には長けていたけど思春期の心理不安を描いた青春映画的側面もあったためホラー映画としての興行的指針においていいのか少し微妙なところ。(『IT』自体はホラーであるのは確かだし面白い!)
なので本作も「ホラー」として打ち出したためにがっかりした印象になる。

プレデターやエイリアン、ゾンビも広義的にはホラー映画のくくりとなる。ホラーは決して幽霊が登場するということに定義されるのではなく、その演出やシチュエーションに依るところが多い。初代『バイオハザード』はホラーだったと思う。

そう考えたときに、本作はシチュエーションとして確かに「ホラー映画」として制作されたのだろうが、「ホラー」としての出来は今一歩、「悪くはない」という点に落ち着く。
「悪くはない」けど、「悪くはない」でしかない。なので佳作。

プレデターと同じように、モンスターサバイバル映画としてどきどきハラハラ見た方がずっと面白い。
ドント・ブリーズ』的な、自分の呼吸音すら恐ろしく感じられるようなホラー感を期待すると、「うーん」となっちゃうかも。私はファーストデイ(1100円になります)に行って良かったなと思っちゃいました。

以下ネタバレを含みます

 

 

ネタバレを含むあらすじ


末の息子を「何か」に襲われ失った一家。彼らは荒廃した世界で、田舎の一軒家に住み着いた。農業をして食事を賄い生きている。父・リーは未だ希望を捨てず、「何か」を研究しどこかからの救助を求めながら、家族を守っていた。
そんななか、母・エヴリンは出産を控えていた。生まれてきた我が子には酸素吸入器を用い、音を遮断する箱の中で育てるつもりだった。
末の弟を死なせた負い目を感じ、父に嫌われていると思っている長女リーガンはある日家を飛び出してしまう。同じ日、弟マーカスはリーにつれられサバイバル技術を教えられる。
そんな日に妻は産気づいてしまい、誰もいない家の中で出産に臨むが、音を聞きつけた「何か」が家の中に侵入してくる。助けに戻ったリーによってエヴリンと生まれた赤ん坊は無事だったが、リーガンとマーカスが「何か」の徘徊する外で動けなくなってしまう。
我が子を助けに行ったリーだったが、2人は「何か」に襲われそうになっていた。リーはリーガンに「愛してる」と伝え、大きな声を出すことで「何か」の注意をひき2人を助ける。そしてリーは死んでしまう。
リーを失った家に再び「何か」が侵入してくるが、耳の聞こえないリーガンは自分の補聴器の発する高音が「何か」の弱点だと気づき、マイクで増幅させた大音量で「何か」をひるませ、ショットガンで殺すことに成功する。銃声によって引き寄せられた無数の「何か」が家に向かってくるのが見えたが、リーガンとエヴリンは強く頷き、補聴器とショットガンを握る。

 


『その後』を描く細やかさが良い

世界観はポストアポカリプス的な。
と言いながらポストアポカリプスよりもっとふさわしい言い方があったはずなのに出てこない。もやもやする。

文明が滅んだあとの世界。ワールドワイドなゾンビ映画もそうですが、たいていこういった映画には人のいなくなった都市と荒廃が描かれる。たいていのゾンビ映画では、『その後』は描かれない。
本作では、世界が滅んだあとでも土地に根付いて植物を育てて魚を捕って食べて遊んで寝て生きている日常を描いている。
たいていの映画では描ききることのできない、「それでもどうにか生きていくしかない」という日々を描いていて、そのなかでもすごろくゲームをしたり、「何か」に襲われないよう床に布を敷き詰めたりすごろくの駒が柔らかい素材になっていたりする、「現実に適応して生きている一般人」の姿がすごく良かった。

妻の妊娠出産も、荒廃した世界でも人間は生きて血を繋いでいく必要がある、子どもを為していこうとする、というやっぱり他の映画ではあまり描かれない「その後」の重要な点かなとおもう。

どんな状況であっても人間はきっと定住して生きていこうとするし、家を建てようとするし、快適に過ごせる環境作りをしてしまうのだと思う。子供をつくってしまうのだと思う。

ホラー映画というよりはアポカリプス的世界観の映画として、滅亡した世界で日常を生きていく映画として売り出した方が、マニアックなフェチズムがくすぐられて良いと思うけど。前半のこういった描写にこだわりを感じて、むしろ描きたかったのこっちでは?と思ったくらい。(酷評されてる実写版『進撃の巨人』も町並みなどの世界観の描写がメッチャクチャ良かった。映画館で2回観た。)

私はこういった、荒廃した世界の『その後』が描かれている作品が好きなので、むしろこっち路線で売ってほしかった。

 


正直つっこみどころはいっぱいある映画

でもサバイバルホラー映画として売っている本作。ホラーとしての評価は避けられない。
正直微妙。ホラー的なシーンがびっくり系しかない。しかも登場人物が扉をたたいたりしたシーンで、音で無理矢理びびらすな。無理矢理ホラーっぽくすな。

のっけから子供が死んでびっくりした。昨今は色々うるさいので子供は死なせづらいものだけど、たまにガンガン子どもを殺すパンクな監督もいる。たぶんそのタイプの監督。知らんけど。ジョン・クラシンスキーの映画たぶん観たことあるけどわからん。
グリーン・インフェルノ』の監督が、部族による食人パニック映画が人種差別だと叩かれがちななかで「これは本当に人を食った映画だよハハハ!」って煽ってたの思い出した。どうでもいいけど。

丁寧な造りかと言われたら首をひねってしまう。バイオハザードなんかは丁寧もクソもない作りだけどアクションと「もうなんかそういうコンテンツだから」とゴリ押せてしまう強さがあるが、本作はホラー要素を取り入れようと頑張っているため、余計にその荒さが目立ってしまう。正直「静寂」要素が微妙。いる?これ

あと「いや死ぬんか~~い!」って3回突っ込んだ。

①冒頭の末息子
子供なのに容赦なく死ぬ(びびる)

②森の中のおじいさん
いや急に新キャラ出すな、唐突すぎてなんでじいさんが自ら大声出してモンスターに殺されたのか理解が追い付かなかった。ラストに父親(リー)が大声をだして死ぬ伏線にしたかったんだろうけど唐突すぎるわ。伏線はもっとうっすらいれろ。
たぶんじいさんは妻(ばあさん)が死んだショックで自殺に至ったんだろうけど、そのシーンは世界観へのショッキングさを付与できるんだからもっと丁寧に作るべきだった。前半のリーのシーンで、森の中のじいさんばあさんとリーが魚や農作物の交換をして交流している描写を1分挟むだけで違った。そうしたら、世界が滅んだあとでも人間が人間として営みを続けようとする前半シーンとマッチしたし、世界観の残忍さを表すのに一役かったのに。マジで唐突すぎた。びっくりした。

③リー
おまえムキムキだし頭もよくて電気工作できるんだから、おまえ死んだらあかんやろ。幼い子供2人と生まれたばかりの赤ん坊と出産直後の妻を置いて死ぬな。一家野垂れ死ぬぞ。
あれ手にもってた斧を遠くに投げて音立てるんじゃだめなのか?それじゃ音小さいのかな。でも外に子供助けにいくのになんで丸腰なんだよ。閃光弾とか花火とか持っていかないの?なんでやすやすと死んだ?と思ってしまって……。

「何か」がはっきりと姿を現してしまったところも残念。見た目がただのエイリアンで、ちょっとがっかりでした。ふつうのエイリアンじゃんという……もっととんでもないバケモンを期待していた……

つーかそもそも、音がヤバいってわかってるのに子をつくるな!!
ここが一番引っかかって仕方がない。

「酸素吸入使って密閉した箱の中にいれておけば安心だよね」
そんなわけなくない?
母乳あげるときマスク外すじゃん、泣くじゃん、やばくない?
日に当てずに育てるの?やばくない?
現実的に考えて無理じゃない?

世界観の描写としてこの妊娠出産はあったのかもしれないけど、どうしても「無理でしょ」と突っ込んでしまう。

描きたいビジョンは伝わってきたけど、実際に形にするまでにまだ至っていない印象。
もう少し練ってから着手すべきだったんじゃないかと思う。発想と世界観は非常に面白いものだっただけに、不完全燃焼という印象がぬぐえない。

 

避けられない『ドント・ブリーズ』との比較

これ観ながら「ドントブリーズ観たいな……」ってなるのしかたなくない!?
そもそも「音をたてたら即死」ってコンセプトが被ってるし、ポスターの構図が被ってるし、タイトルもなんか似てる気がしてきたし、こうなったら「妊娠出産」というモチーフが出てくるのも被ってる気がしてきた。
シチュエーションが違うのでもちろんパクリでもなんでもない。ただ公開年がさほど離れてない以上、比較され批評されるのは避けられない。

不完全燃焼という印象がぬぐえない本作。やはりまだ無理をして形にしたという雰囲気が伝わってきて、『ドント・ブリーズ』であれば無理なく違和感なく形にできていたものができていなかった。
「音に敏感なら大きい音を立てればいい」というラストシーンも、『ドント・ブリーズ』では観客までもが登場人物のように雰囲気にのまれて呼吸を押さえていただけに「よく考えたらそうじゃん!その手があった!」とエポックメイキングなことにすら思えたのに、本作では「そうだね」としか思えない。

そこのどんでん返しがうまくいかなかった理由はやっぱり雰囲気づくりの甘さにあるし、「静寂」というホラー要素とモンスターサバイバルという「動」の要素の対比がうまくいかず、観客を世界観に巻き込みきれなかったところに敗因があると思う。

恐らく隕石でやってきた地球外生命体と思しきこの「何か」、見た目がエイリアンであるわりに、「盲目で音に敏感」だから人を殺す……なんで?という感想。殺す理由は何か。捕食目的なら納得いくけど、そうにも見えない。手あたり次第殺しまくる戦闘狂モンスターなのか。プレデターじゃん。成人儀礼とかの理由があるプレデターのがよっぽどわかりやすい。
「殺される理由」ももう一つ後押しする材料がほしかった。やっぱり『ドント・ブリーズ』に比べるとあらゆる面で無理が生じてしまった印象。

いっそホラー映画というレッテルを外して広告を打てば、比較されることもなかっただろうし、ここまでもやもやとした作りにもならなかったはず。

 

世界滅亡の「その後」を描いたサバイバル映画としては佳作だったけど、発想が良いだけにもっとアイデアを固めてから制作してほしかった映画。ちょっと残念でした。
モンスター映画としてはまあまあ面白い!

 

quietplace.jp