現金満タン、ハイオクで。

サブカルチャーがだいすき。ツイッターの延長なので詳しくはツイッターを見てくれ。

男のアナルに指を入れた日

特にオチのない少し昔の話です

 

 

「アナル掘ってほしいんだけど」

ある年の蒸し暑い真夏の昼間、大阪の片隅のラブホテルで、私の目の前に四つん這いで尻を突きだした男とローションがあった――。

 

 

BLが好きです。ボーイズラブ。ゆえにボーイズたちのえっちなシーンも大好きです。

BLはファンタジー。それは知っています。昔に比べたら、やおい穴は無くなり、オメガバースのような特殊設定でない限り自然に濡れることもなく、みなアナルを洗浄し、切れ痔に怯える受けやローションを手のひらで温める攻めが普及し、最初のセックスは難航し、確かにリアリティーは増してきました。が、しかし、やはりAV同様にファンタジー。指を4本いれて手マンする攻め(痛いわ)やアナルにブツを挿入したまま体位を変える攻め(最悪人工肛門やぞ)を見るたびに実感します。

男に膣はないが、女にアナルはある。BLのリアリティーを追及するために自らのアナルに挑む腐女子の熱き戦いを時折インターネットで拝見していましたが、私にはそこまでの熱意はなく、アナルセックスは私にとって難民問題くらいの遠い立ち位置にありました。

ここまでが前置き。

 

ある年の真夏日、私はラブホテルにいた。一緒にいたのは眼鏡をかけた背の低い、一言で言えば「陰の者」な男でした。

ひょんなことからその男と知り合った私はうわべだけの会話の浅い交流を重ね、ある日、男にラブホテルに誘われたわけです。私は男が嫌いではなかったので断らなかったが、好きでもなかった。彼に性欲も抱いていなかったし、彼のことを「変な男」だと思っていた。

 

彼は20代半ばになっても彼女ができたことがない童貞だった。私は童貞の人と付き合ったこともあるし(なんなら好きだったし)、童貞でも別に良くね?と思っていたし、恋人がほしくない人もいるだろうし、そうならば何歳であれ童貞だろうがどうでもいいだろうし、とにかく彼が童貞であると知ったときも「ふーん」だった。

しかし彼自身は違うようで、かなり彼女がほしくて悶々としていたようだが(正確には彼女という存在とセックスがしたかったらしい)、街コンやマッチングアプリは敬遠しているらしく利用できないそうで、かといって風俗嬢のことも見下しているから風俗で性欲を解消することもできず、とにかく彼は悶々としていた。そしてそこに私がいた。

彼にとって私は、彼が見下すべき「中古品のビッチ」だった。複数の男性と性行為をしたことがあり、とうに処女ではなく、あまり貞操観念がおキレイなわけでもない私は、彼にとっては馬鹿でどうしようもない女だったらしい。

私は私で、彼が「彼女と手が繋ぎたい、セックスがしたい」と言うのを聞くたびに、異星人を見るような心地になった。彼が求めているのは、「恋のトキメキ」や「恋人の安心感」、あるいは「生活の安定」などではなく、「都合のいい女体」それ以外の何物でもなかったからだ。彼が女体を求める限り恋人はできないだろうなあとなんとなく思っていた。

彼がAVや漫画のような複雑怪奇なプレイを当たり前のように所望するのを見るにつけ、私は「ウケるなー」と思いながら酒を飲んでいた。

私は性格が悪いので、彼を珍獣のように愉快に見ていたし、彼に対して否定も肯定も口にしなかった。ずっと傍観していた。

 

お互いの核に触れない浅い会話を交わしていたそのとき、彼は「ホテルに行きたい」と言った。私は「いいよ」と言った。

 

受け入れた理由は、「興味」からだった。私に一切の恋心を持たない彼が、女体への欲に負けて、見下している中古品の私に触れたいと言ったのが「ウケた」のだ。そしてそんな彼が生身の人間である私にどう触れるのか、興味を抱いた。彼に恋心はおろか友情すら抱いていなかったし、性欲も抱いていなかった。

 

彼は私に「女子大生の裸が見たい」と言った。私は女子大生だった。

普通の女性なら彼に引くのだろうが、私はワクワクしていた。毛穴があるし、ムダ毛の剃り残しもある。夏だから汗ばんでいて、彼のきらいな香水の匂いがして、痛いことやむかつくことにはっきり「痛い」「むかつく」と言う性格をしている。風呂に入らなきゃ当たり前に陰部は蒸れた匂いがする。そういう生身の私に、彼は耐えられるのだろうか?と考えると興味がわいた。

私は彼を打ち負かしたかったわけではない。彼がどういう生き物なのか知りたかった。

 

ホテルまでの道中、彼は無言で、口元を抑えていた私の手を強引に掴んで不恰好に繋いだ。彼は私に「生理じゃないよね」と言ったから、私は「違うよ」と言った。彼は「生理のときは感度が上がるらしいから残念」と言った。私は血まみれでセックスなんて御免だと思いながら「ふーん」と言った。

 

ホテルに入り、シャワーを浴びると、行為は始まった。――と思いきや、彼は私に触れなかった。時折胸を触っていたが愛撫と呼ぶにはあまりに拙く、彼は私の裸を見ながらオナニーを始めた。私はびっくりしたが、同時に「ウケるなー」と思っていた。もとより彼に抱かれたかったわけではないし、セックスしようがしまいがどちらでもいい。

一応彼に「しないの?」と聞いたら「処女じゃないから」と言われた。ふーん、と返した。

彼は私を汚いと思っていたようだった。複数の男に抱かれた私は汚いらしい。触れたがらなかったが、「女子大生の裸って抜けるね」と言いながら私の胸と陰部を見ていた。

 

私は「わりと一貫した男なんだな」と思った。女体への興味が尽きないわりに非処女には触れたくないらしく、ある意味一貫したポリシーを感じる。私は勿論ここまでで全く気持ちよい思いはしていないし、彼のオナニーの対象でしかなかった。私は興味だけでここに来たのでそれで別に良かった。

 

彼は私が生まれてはじめて見た、真性包茎の男だった。仮性はたくさん見たことあるが、真性は初めて見た。私は「子供の頃にみたイトコの男の子と同じだな」と思っていた。このちんこを舐めろって言われたら嫌だなあとか思っていた。

そしたら彼に「してほしいことがある」と言われ、身構えていたら、「アナルを掘ってほしい」と尻をつき出されローションを渡された。~冒頭に戻る~

 

彼は性的に倒錯していた。一通りの性経験があって快楽を追求した結果アナルに到達したわけでもなく、男性と性行為がしたいからアナルに行き着いたわけでもなく、女とセックスがしたいが相手がいなくてオナニーの末にアナルをいじるらしい彼を、私は「倒錯している」と率直に感じた。私は適量のローションを手に取ろうとしたが、近年リアルになりつつあるボーイズラブ(非常に良い)のおかげで難民問題くらい遠い位置にあるアナルセックスの知識だけ妙に増えてしまっていたため、「待って後ろ綺麗にしてなくない??」と思った。穴の中洗浄してなくない??絶対に触りたくないんだけど。

なのでコンドームを指にはめてローションを塗りたくり、目で対象を捉えて、ゆっくりと指を挿入した。彼は「あー……」と言っていた。私は正直「絶対うんこ来るなよ」とアナルに祈願していた。結論から言うとうんこ被害は特になかったが(直腸って意外と綺麗だヨ!というのは本当なんですかね)。

個人的には膣の中の感触と変わらなかったが、指1本入れるのが限界なくらいきついし、「な、内臓……」と意識してしまう。

彼は言った。「気持ちよくして」。いや……どう動かしたらいいか分からんし……ボーイズラブではお腹側になるしこりが前立腺とか言ってたけどそんなん見つからんし……てかどうやって指動かしたらいいか分からん……手マンって難しいんだなということを私はその日学んだ。

とりあえず乳首とかいじりながら触ればいいか?と思ったけど何しても反応が「あー……」だし、私はこの日「マグロの女ってうざいよな」と言っている男の気持ちを理解した。てか無銭でなんでこんな接待しなきゃいけないんだ……?

私は「こんなとこにちんこ入るのかな……」とずっと考えていた。

彼は「まだ前立腺開発されてないみたい」と言ってアナルを閉じた。私の初アナル体験(語弊がある)は非常に簡素で味気なく、呆気なく終わった。なんか思ったより劇的なものでもすごいものでもなかったし、初めてセックスした童貞ってこんな気持ちなのかな……と思った。

私は手についたローションをぬぐい取って、彼のオナニーを観察していた。男がオナニーする姿って客観的に見たら間抜けだなあと思った。

彼は帰り際「早く彼女を作って彼女とこういうことがしたい」と言っていた。処女の女の子はこれに耐えられないだろ……と思ったし、正直に「多分M性感とか風俗行った方が満足できると思うよ、オナクラとかもあるし、ニーズにあったところがあると思うよ」と言ったら、彼は不機嫌になってしまった。

私は裸体の彼を見てなんだか彼に感じていた奇妙な興味を失ってしまっていた。

 

からしばらくして連絡が来た。またホテルに行きたいという内容だった。彼は私も性的に盛り上がっていたと感じていたようだが、どこに盛り上がる要素があったのか分からない。彼は画面越しの女優ではなく生身の私の裸を見てまたオナニーしたかったようだが、私は私の裸を見ながらタン!タン!タン!タン!シュッ!シュッ!と性器をしごく彼の姿を見て、なんだか不思議な生物に対する興味のようなものは薄れてしまい、ホテルに行く気にはなれなかった。

ついでに、今まで否定も肯定もしてこなかったが、唯一「真性ってバイ菌だらけだから風俗行くならフェラするときもゴムつけたほうがいいしなんか女の子も病気になりやすいらしいから彼女作る前に手術したほうがいいと思うよ」と言った。 

彼は怒っていたが、生き物としての彼に興味を失ってしまった私は特に何も感情を抱かず、てきとーに宥めるスタンプを送ってLINEを閉じた。ブロックはしていなかったからLINEが届いていたがちゃんと読んでいない。

 

生まれて初めてアナルをいじった感想は「怖い」だった。

ちなみに彼と最近再会したが、まだ真性包茎の童貞だった。