『ザ・プレデター』感想/プレデターフェチによるハードボイルド青春アクション映画!
す
元特殊部員で現在は傭兵の父親クインがメキシコで手に入れた謎の装置を、息子のローリーが箱の中から発見。彼が起動させてしまったその装置は、地球にプレデターを呼び寄せるシグナルを発信するものだった……。
プレデターと接触したことで、事態を隠蔽しようとする政府の極秘機関に監禁されてしまったクイン。彼はルーニーズと呼ばれるならず者の兵士たちと共に脱走し、危機が迫っている息子と人類を救うために奮闘する!
再び人類の前に姿を現したプレデターは、他の種のDNAを利用し、遺伝子レベルでアップグレード。より強く、賢くなっていた。さらに、通常のプレデターをもはるかに上回る圧倒的なパワーを秘めた、アルティメット・プレデターまでもが突如出現!人類はどのように立ち向かえばいいのか……!?(公式サイトより引用)
みんな大好きプレデター。
エイリアンvsプレデターって貞カヤみたいなものだけど、こうしてプレデター単体映画を見ると、なんだかエイリアンが恋しくなるものですね。
「ザ・プレデター」、ホラー映画としてのスキルを全て捨ててアクション&男のロマン映画に全振りして良作というかんじ。
プレデターフェチによるハードボイルド青春アクション映画、です。
ホラーを期待する人には、つまらないというよりもそもそも「違う」かなと。ラーメン食いに行ったらカレーが出て来た。でも美味しいカレーだった。みたいな。
でもめちゃくちゃ面白いから、ホラーを捨てて見に行ってくれ!という心境!
できたら友達と行ってくれ!
以下ネタバレを含みます。
- ①惜しみなく人が死ぬ!「人間vs人間」「プレデターvsプレデター」!
- ②プレデターへのフェチズムに支えられるリアリティ!
- ③まさに青春アクション映画!社会からつまはじきにされた男5人が、巨大な政府組織に歯向かい死闘を繰り広げる!
- ④ヒロインポジションだけどヒロインにならない女!そこにあるのは性別の垣根のない、「仲間」であるということ。
- ⑤「ザ・プレデター」はホラー映画であるか。
①惜しみなく人が死ぬ!「人間vs人間」「プレデターvsプレデター」!
これぞお金をかけたアメリカ映画の醍醐味。客はみんなこれを期待してる。
とにかくいっぱい撃ってなんかいっぱい死ぬ!
これを求めてた。そう。これなんだよ。いっぱい死んでほしいんだよ。
そしてこの「死ぬ」というのが、今までのプレデターやエイリアン映画とは違う、人間と人間が殺し合ってプレデターとプレデターが殺し合うシーンの多さ。
今作は舞台が開けた地上であるということ、主人公が政府側の人間ではなく、なんか色々企んでる政府に歯向かう側であるということ。2つの点から、非常に人間同士の戦闘が多く、感覚としては映画版『バイオハザード』に近いものを感じました。
プレデター・エイリアン映画では一方的に虐殺され逃げ惑う人間の姿も醍醐味ですが、今作では尽きることのない武器を持って戦い、人間同士での争いも描かれているというのが、アクション映画の色が強くて見ていて楽しい!
従来のプレデターでは結構虐殺シーンが苦手な人もいるかもしれませんが、今作ではほとんど「虐殺」らしい虐殺はあまりないので、アクション映画として楽しめる人も多いと思います。
たぶん『24』とか好きな人にウケそう。
②プレデターへのフェチズムに支えられるリアリティ!
プレデターの持つ武器(ハイテク技術)が実際にどういった技術であるのか、実際にどのような文字を使ってどのように会話をしているのか、プレデターを架空の生物ではなく実在する生物としたときに求められるリアリティに挑んでいた印象。
SFの小説を書くときに、その小説には直接かかわらない、オリジナルの言語や世界地図、神話などを作り上げる高揚に近い、プレデターへのフェチズムを感じました。
プレデターオタクが作ったような安心感がある。すごい、イイ。
プレデターに殺された人間の死体も、「プレデターの武器にかかっちゃった人間はこんなふうに死んでこんなふうに臓物が出るんだな」というリアリティを感じる。
すべてがプレデターへのフェチを感じる。
すごくいい意味で「プレデターの二次創作」みたい。(ものすごく褒めてます)
『エイリアンvsプレデター』では「プレデリアン」という、全ファンが見たかった「そうだよそれそれ!」というものを見せていただきましたが(全ファンかは知らない)、今作でもラストに軍に復帰しプレデター研究に携わる主人公が対プレデタースーツを手に入れて「新しい俺のスーツだ。サイズが合えばいいがな」という旨の台詞を言うシーンで、「そ~~~~なんだよ!それそれ!」ってなった。
もうこの、ヒーロー映画感!次回作のラストで主人公がスーツを着た時絶対に勝ち確BGMが流れるよ!!これが見たかった!
次回作絶対お願いします~~~~!
あとプレデターの宇宙犬めちゃくちゃ可愛かった。最初はめっちゃキモッとなったのに、とってこいとかしてるのを見るとだんだん可愛く見えてくる。
やっぱ映画にはこういうなごみキャラが必要だね……。
あんなにキモかったドレッドヘアーまでもがキュートに見えてくる……。
(これは犬飼いの人間の感想なので、犬好きじゃない人からしたら終始キモイだけかもしれない。わかんない。)
③まさに青春アクション映画!社会からつまはじきにされた男5人が、巨大な政府組織に歯向かい死闘を繰り広げる!
映画を見終わったら、なんだか友達と子どもみたいにバカやりたくなるような、そんな映画。
主人公率いるルーニーズ特殊部隊。これは全員元軍人でありながらもPTSDを負い、そのなかでもさらに2軍とされた、「ならず者」集団。もう社会からつまはじきにされた、負け犬たちの集まり。
同じ軍人たちからも「どうしようもないやつらだ」と馬鹿にされ、社会を斜めに見て生きているような彼らが、主人公とともに政府に歯向かって死闘を繰り広げる。
最初はよくいる荒くれ者の集まりなんだろうな~と思っていたら、ケイシー(政府のプロジェクトでプレデター研究のアドバイザーとして呼ばれた、異種交配を専門とする進化生物学者の女性。)が眠っていても決して手を出さない。それどころかリラックスできるように気を遣ってくれたりする。
口は悪いし皮肉屋だったりおちゃらけていたりするけど、人間としての筋が通った普通の、いやむしろ感性の鋭い男たち。
彼らの存在が凄くイイ。
仲間として協力しあい、たった男6人と女1人では立ち向かえないような巨大権力に立ち向かっていく。
そして仲間のために死んでいくそれぞれの最後にはほろっと来てしまう。
お互いにトドメを刺し合うシーンには、「死ぬことの悲壮感」や「グロテスクさ」以上に、潔い死の美学みたいなハードボイルドさまであった。
これは『カメラを止めるな』がヒットした理由によく挙げられるものだけど、「不況の暗いご時世だからこそ、コメディで心温まる優しい展開がウケた」というもの。
同じ理由で、『ザ・プレデター』のこの男6人の絆と共闘は、今の暗い時代にウケるのだと思う。政府(巨大な権力)に、それよりずっと劣る人数と武器で、自分達の腕を頼りに、恐れることなくバカな応酬をしながら全力で立ち向かっていく。
その姿に、私はなんとも言えない切なさを感じて、同時に心がじんわりする感覚があった。
隣にいる友達の手をぎゅってして、子どもみたいに「俺たちにできないことなんかない!」「俺たちは最強だ!」って、妙な自信で世界中に胸を張れていたあの感覚。(修二と彰みたいな)
それと同時に、それぞれの過去を背負っている彼らには、世間のいろんなことを知ってしまった大人には色々沁みるものがあったりする。
社会からつまはじきにされたヤツらが、仲間とともにメチャクチャ頑張っている映画。
ハードボイルド青春アクション映画として、文句なしの良作です!
5人全員生き残ってて、次回作で主人公をセンターに据えた6人で再び特殊部隊としてプレデターに立ち向かって、シリーズ化とかしてほしかった。しんじゃったの結構悲しい。
(わりと後半で「やべっ尺足りねえ!急いで殺そ!」みたいなノリで、死に方自体はかっこいいけど、メタ的に見たらわりとあっさり死んじゃう。)
モンスター映画だから……グロそうだがら……と毛嫌いしてるひとにみてほしい。
『プーと大人になった僕』と2本立てとかでお届けしたい。
④ヒロインポジションだけどヒロインにならない女!そこにあるのは性別の垣根のない、「仲間」であるということ。
そしてこの映画で印象的だったのが、明らかにヒロインポジションの女が、ヒロインではないということ。(主人公には妻がいるし、今後も夫婦でいそうな感じなのだ)
今までの作品だったら、絶対にラストは主人公とケイシーがプレデターの死体の前で熱いチューを交わして終わりだったんだろうけど、それがない。
ケイシーはもちろん女性として描かれるのだけど、それ以上に仲間として描かれるため、男たちのなかに馴染んでいる。
「ええ!?惚れるとこあった!?」みたいな2人があっさりチューして終わるのが洋画のお決まりで、まあ一種そこを求めてるようなところもある。『ハムナプトラ』のラストのらくだにのりながらのキスシーンを見ながら「これこれ~」と何度思ったか分からない。
『シン・ゴジラ』だってアメリカで作られてたら、固まったゴジラを背にして長谷川博己と石原さとみが熱いチューを交わしていたに違いない。
最近の映画って、ものすごく女が強い。
女主人公のスリラー映画なんかでは、「実は襲われてる女がメチャクチャ強かった!」展開じゃない映画ってほとんどなくない?というくらい、最近の女は強い。(『サプライズ』は駄作と言われがちだけど、あんなに後半戦が面白い映画他にはない。ミキサー!)
今作の女性も例に漏れず、いち研究者のくせして、なんかしょっぱなから武器を持ってたった一人でプレデターを追っかけるくらいには強い。正直そこに違和感がないと言ったらうそになる。
恐らくこれも時代の流れなんだと思う。女だって強いんだ、キャーキャー言って守られてるだけのヒロインは終わったんだ、という。
ホラーを皮肉ったあの名作映画『キャビン』でも、ヒロインの女の子がゾンビをぶっ殺しているのを見ていた監視員が「最近の女の子はしぶとくて強いな。昔の子はすぐ殺されてくれたのに」というような台詞を言うシーンがあって、そのことも蘇った。
恐らくヒロインに「強い」(いわゆる「女性的」ではない)ということが求められる現代で、さらにそこから恋愛要素も抜いた存在がケイシーだった。
そういう意味も含めて、「すごく最近っぽい」というのがケイシーの感想。まあ研究者だし最初はもうちょっと弱くても良かったのでは?と思わないこともないけど、最後の戦闘シーンでプレデターの武器で身を隠して突如後ろから襲い掛かるシーンは「かっけぇ!」の一言に尽きる。
ルーニーズ特殊部隊の男たちが、ケイシーにキャットコールじみたものをしないのも良かった。(人間対人間として、ビッチに近い悪口を言ったシーンはあるが、あきらかなキャットコールはない。ケイシーのキャラクターの立ち方もさることながら、女性の権利みたいなものも感じた。最近の映画だから凄く配慮がされてる)
いい加減むりなお決まりの恋愛要素にあきあきしてる!なんて人にはちょうどいいかもしれない。
⑤「ザ・プレデター」はホラー映画であるか。
ここまで凄く褒めて来たわけだけど、『ザ・プレデター』は決してホラー映画ではないと思う。(ここでの「ホラー」は広義的なもので、モンスターとかスリラーも含む)
ホラー映画の醍醐味は、限られたフィールドで限られた人数で限られた武器でそこから生きて脱出する、みたいなところがある。
プレデターやエイリアンシリーズには基本的にそういう趣向があった。宇宙船であったり、地下であったり、島であったり、そういう限られたフィールドの中から生きて外へ脱出することが目的だった。人数も武器も限られている。
今作では、その限られた人数から、1人また1人と減っていく恐怖はまったくない。舞台は特に定まっていない、しいて言えばアメリカ全土だ。武器は無尽蔵だ。
ここに「ホラー」としての恐怖・面白さがあるかと言ったら、それはノーだ。
ゲームの『バイオハザード』もそうで、1がホラーとしての恐怖に溢れていて、2からは趣向が変わった。つまらないとかではなく、全く別物の面白さなのだ(『バイオハザード7』は、そういった意味では「帰って来たバイオハザード」だった)
『ザ・プレデター』が良作であることは間違いないが、そこにホラーとしての趣向を求めてはいけないと思う。最初に述べたように、ラーメンじゃないけどうまいカレーだから。
これはやっぱりハードボイルド青春アクション映画であると思う。
あと宇宙犬がかわいい。